No.2 良い空気を吸う権利

更新日:2016.4.1

人間は、食物、水、空気を取り込むが、その中でも空気は非常に多いと言える。例えば、成人安静時の1回の呼吸量が約500 mLで、呼吸数が15-16回/minであることから、呼吸量は1分間で約8 L/min、1日で約1,150 Lにもなる。重量では、約15 kg/日となり、食物の約1 kg/日、水の約2 kg/日に比べても非常に多いことが分かる。食物、水については、我々が選択して安全なもの、おいしいものを自分の好みで摂取することができるが、空気についてはその場にあるものを呼吸することになる。よって、私たちはその空間の空気を好むと好まざるとに係わらず、その場の空気に頼らざるを得ない。

身の回りにある空気は、目に見えなく、存在感もなく、なかなか感じることができない。例えば建物の中で、暑い寒いに関する温熱環境には敏感で、衣服を脱ぎ着したり、エアコンをつけたり、設定温度を調整したりする。明るさに関係する光環境についても、暗ければ照明をつけるし、直射日光がまぶしければカーテンやブラインドを閉める。しかし空気についてはどうだろうか。もちろん近くにたばこを吸う人がいれば、換気扇を動かしたり、窓を開けて空気を入れ換えることをするだろう。昨今のビルでは、分煙や禁煙が進められて、たばこの煙で空気が極端に悪くなっていることがなくなっている。また、においについては敏感に空気を感じることができるので、「臭い」と感じた際には、同様に換気などの行動を取り、においの発生源を探すことになる。しかしその他には、特に問題と感じることがなければ、その場の空気の善し悪しに係わらず、特に気にせずに大量に吸い続けることとなる。現代人は、大半を住宅や建築物などの室内空間で過ごしていることからも、室内の空気が汚染され、その空気を吸い続けることで、健康に悪影響を及ぼすことがある。これが「シックビルディング症候群」又は「シックハウス症候群」となる。

一般に空気とは、窒素、酸素、アルゴンなどの混合気体で、これらの物質で全体の99%を占める。人の健康に有害となる成分はこれよりも極微量存在するものが対象となる。住宅やビルの室内では、内装材料や燃焼器具、調理、居住者の行動により汚染物質が発生し、気密性能が向上した現代の建物では、極微量でありながらも我々が気づかないうちに、空気中に長い時間にわたって浮遊し続けることとなる。これを避けるために、ビルであれば空調機が重要な役割となる。空調機は温湿度を調整するだけではなく、外気の新鮮な空気を取り入れ、粉じんなどを除去して部屋に供給し、汚染された空気を部屋より排出する。このようにして、我々の健康を脅かすような極微量な汚染物質を適切に制御することが、空気汚染対策で最も重要であり、空調機が重要な役割を果たしている。

昨今、PM2.5と呼ばれる大気汚染が話題となることがある。大気汚染対策には、工場の排ガスや自動車の排ガスを規制すれば良いかと思うが、他国からの越境汚染など地球規模での対策も必要となり、容易ではない。しかし、建物の内部だけに限れば、空気を浄化し、快適な空間を創ることは、空調機の技術により比較的容易に達成することができる。よって、我々が吸う空気については選択する自由はないものの、多くの時間を過ごす建物の中では空調機を適切に設置し、運用・維持管理することが重要である。以上のように建物の中を空調システムにより適切な空気環境とすることは、私たちの良い空気を吸うための権利を守り、健康で安全で快適な環境を維持するために必要不可欠である。

東京工業大学 環境・社会理工学院
建築学系 准教授 鍵 直樹

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