ページの本文へ
JADCAコラム

No.3  ばい菌に負けない生活術

某サニタリー・メーカーのTVコマーシャルに出てくる「ばい菌親子」の会話が面白い。父ビッグベンに向かって、子リトルベンが「ぼく、輪ジミになれないの?」と悲しげにつぶやくせりふがユーモラスである。輪ジミとは、微生物の専門家が「バイオフィルム」と呼ぶ堅固で難攻不落な、ばい菌の城である。このメーカーはそうした目に見えない汚れをつけない特殊な表面加工をした衛生的な便器を開発した。


そもそも微生物とは、どんな環境にも見つかる生命体であり、生命誕生の舞台となった原始地球に生まれ、今も地球上のいたるところに勢力範囲を拡大しつつある。それらのミクロな生命体は、多くの種を異にする種類が集合体を形成することで生存している。細菌やカビなどの微生物は、生物界の中で動物や植物よりもずっと古い生物のグループに属している。その祖先は今をさかのぼる約38億年前の原始地球で誕生した。地球の生命の歴史を1年のカレンダーでたとえると、人類は、12月31日の大晦日に生まれてきた新参者にすぎない。人間や動物などは、植物や菌類を食物として摂取して生命を維持するが、細菌やカビなどは、植物や動物などに共生・寄生して栄養を取り、それらを分解して、最終的に地球の土に帰す役割を担っている。だからもし、ばい菌が地球上にいないと、そこは生物の死骸だらけで、とても生物の生きられる環境ではない。そうした地球のお掃除屋として微生物は大切な隣人である。その一方で、人間の生活環境に知らずの内にエイリアンのように入りこみ、いろいろな悪さをする厄介者でもある。


環境微生物は生存能力に長けており、条件さえそろえば、あっという間に仲間を増やし、テリトリーを拡大する。つまり、水と栄養さえあれば、細胞分裂や胞子発芽などのたくみな生殖スタイルで成長・増殖する。身近なカビは、正月のお供え餅や室内に置きっ放しにしたパンなどの表面に白や青や赤色の斑点として姿を現す。もちろん冷蔵庫の中にも入ってくるので油断はできない。住宅の中では、家の構造上結露しやすい、湿気のたまるウエットゾーン(湿地)に生息する。気密性の高いコンクリートの共同住宅は、カビにとって住みやすい住処となる。なかでも、室内の空調エアコンの中は、カビがもっとも好む温度と湿度条件であり、清掃を怠るとすぐにカビ臭い空気が出てくる。


そこで具体的にいかに住宅の結露や水分を防ぎ、健康な日常生活を送ることができるかまとめてみたい。微生物の親である細胞や胞子は、空気中のあらゆるところに浮遊していて、水分がある場所に落下したり、栄養のあるものや室内の汚れに付着すると、すぐに新たな芽を出す。そこで、室内から水分や汚れをなくす工夫をすればよい。それには、何よりも乾燥と清掃である。ばい菌が増殖するための栄養となる有機物は、家のなかのほこり(ハウスダスト)や浴室やキッチンのシンクに残っている汚れなどさまざまである。部屋の掃除や浴室・キッチンの洗浄をまめにすることは、ほこりや汚れをためないことであり、ばい菌を寄せ付けないポイントである。


微生物がもっとも嫌うのは、水分を取り上げられることである。室内にそうしたドライゾーン(砂漠)をつくるのが、3つの「かんき」と言われるものである。換気(ベンチレーション)は、部屋の空気を外の新鮮な空気と入れ替えることである。一般住宅では、建材からの揮発性物質を防ぐために24時間換気が法的に定められているが、微生物の除去にも換気が有効である。還気(サーキュレーション)は、靴箱や押入れなどの閉鎖空間に、通風孔を設けることで、空気を循環させ、内部の湿気を取る方法である。乾気(ドライング)は、エアコンのドライ機能により、室内の湿度を下げて、余分な水分を除去することである。こうした工夫ひとつで快適なビルや住宅環境が維持できる。


室内にクリーンな空気の流れを作り出すことは、ビルや住宅の泣き所である結露水や余剰水分を除去し、人間のからだをめぐる新陳代謝のように健康で快適な、ばい菌に負けない生活をするための大切なポイントである。

2016年10月4日
JADCA 学術顧問  狩野文雄
(元東京都健康安全研究センター)