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JADCAコラム

No.5  空調システムと水

地球は水の惑星である。自然界における水は生命にとって必須のもので、動物・植物・菌類などの生物は水が体内の大半を占めている。なかでも環境の微生物は生命進化の初期過程で生まれた生命体であり、海水や陸水などの水圏から酸素濃度の高い陸圏へと進出するのに適した機能を獲得した。こうして微生物は、地球全域に生育する能力をもつことができ、生息域を拡大する過程で、乾燥や飢餓などに耐える巧妙なしくみが成立した。そうした生存戦略をもつ環境微生物は、室内環境でも充分に生育能力をもつので、空調システムと微生物とのかかわりは、空調管理の重要なテーマである。


空調システムの維持管理に水の利用は必須である。水は水道栓のコックから出てくるものばかりでない。空調の熱調節には冷却コイルや還流水による空気調節として用いられている。最近、羽田空港国際ターミナルビルの天井裏を通る空調配管に十分な地震対策がなされていないことが判明した。空調用の水は、配管内を循環し、冷風や温風を作り各階フロアを空調している。その配管は天井裏をくまなく通っており、その総延長は、二階部分だけで合計12キロメートルにも及ぶという。(2018年10月22日:東京新聞)その総重量は、水だけでも数10トンにもなり、地震により配管が破損したら、大量の水がオフィスや各航空会社カウンターさらに人の集まるホールなどの全フロアに溢れる事態が予測されたため、速やかに耐震補強対策がなされたと聞く。


水による熱調節のほかに、水は加湿器の加湿エレメントとしても利用されている。加湿エレメントは常にウェットな状態であるため環境微生物のすみかとなる。空調システムと微生物の関係で問題となるのは、不適な湿度調節にともなう室内環境への被害である。いわゆる建材のカビの発生である。相対湿度で、65から95パーセントの範囲で生育する真菌類であるカビは空調システム内を最適な生息場としており、空気の汚染原因のひとつである。室内環境には、いたるところにミクロン単位(1mmの1千分の1)の微生物にとって生育できる水がある。それらは、結露水、表面水・凝集水などの建材表面の水、空調内のドレイン水などの排水である。天井裏に埋設された空調のドレイン水のたまり水が硬く膜状のバイオフィルム(微生物膜)を作り排水口をふさいで、水もれを起こす原因となるトラブルが頻発している。微生物は一滴の水滴でもあれば、分裂、発芽できるので、一度発生すれば、対数増殖的に数時間の間に増える。微生物自体は肉眼では見えないが、増殖した集落(コロニー)は容易に目視で確認できるので、天井裏の定期的点検が必要である。


微生物制御で次に重要なのは、換気(還気・乾気を含めて)である。室内の汚染空気を新鮮でクリーンな外気と入れ替える換気は水分の除去にもっとも有効である。高気密・高断熱の個別空調システムでは外気導入率が極端にすくないので、汚染空気の蓄積と空気中の水分量の増加が起きやすく、室内の壁紙や建材にカビの発生が起こる。そうしたカビの防除対策としては、建材や建物構造自体に、室内ダストを発生しない材質を用いること、天井・壁・床材には、磨耗によるはく離を起こさない表面が平滑なものや、撥水性の性能をもち、表面水を滞留させない工夫が大事である。天井と壁の合わせ目にはへこみに丸みをつけて清掃しやすくする。パイプやダクトは壁に埋設し、結露防止のための断熱材で保護する。床面は平滑な表面で、できれば調湿性(湿度の高いときは水分を吸収し、低いときは水分をはきだす)をもった材質で覆うことで、室内空気の湿度を制御するのが理想である。


空気調和システムをHVACS(Heat Ventilation Air Conditioning System)と表記する。熱調節、換気調節とあいまって、空気調節、特に微生物の調節・管理こそが快適室内空気を保つために重要である。

2018年11月1日
JADCA 学術顧問  狩野文雄
(元東京都健康安全研究センター)