更新日:2019.10.1
ビル空調における基本的な法律がビル衛生管理法であり、1970年4月14日に公布された。ビル管理衛生法による空気環境基準は、浮遊粉じんの量、一酸化炭素及び二酸化炭素の含有率、温湿度、気流、ホルムアルデヒドの量であり、悪臭に関する規制は無い。1970年当時はオフィス内で自由に喫煙ができ、喫煙者の机、会議室等に灰皿が置かれ喫煙していた。このような状況から、ビル空調では室内の粉じん(主にたばこ煙)を除去するための高性能なフィルタや電気集じん機が求められていた。
その後、2002年8月2日に健康増進法が制定されて以来、オフィス、レストラン、病院、鉄道車両、駅舎等での喫煙はできなくなり、喫煙室や屋外の喫煙スペースでのみ喫煙が認められるようになった。また、改正健康増進法が制定され、2020年よりますます喫煙環境は厳しくなりオフィス、レストラン、駅舎等は原則屋内禁煙となり、学校、病院、行政機関の庁舎等では原則敷地内禁煙となる。このような社会情勢から、浮遊粉じん量の環境基準を超えるビルは年々減少傾向にある。その反面、ビル空調における悪臭苦情は年々増加傾向にあり、その対策が求められるようになってきた。
悪臭苦情は畜産・製造工場型と都市生活・民生型苦情に二分されるが、1970年当時は畜産・製造工場型苦情が約80%を占めていたが年々減少し、逆に都市生活・民生型苦情が増加し1991年には逆転、現在は約80%以上を占めている。例えば、焼肉店の排気が隣接するビルの外気取入口に混入したり、ビル内の生ごみ置場の悪臭苦情、厨房除害設備の臭突からの悪臭等が挙げられる。悪臭防止法は1971年6月に制定・公布され、翌1972年5月から施行され、その後、数度にわたる改正等を経ている。1971年当時は工業地帯の公害による悪臭、ごみ焼却場、養豚・養鶏場の悪臭等が多かったが、工業地帯の公害対策、ごみ焼却場は高度な排ガス処理装置の設置、養豚・養鶏場は移転等により減少したが、その反面、都市生活・民生型苦情が目立ってきたこと、また年々健康志向が高まり、よりきれいな空気が求められるようになってきたことが挙げられる。このことは空気だけでなく、飲料水においても同様で「おいしい空気、おいしい水」に対する関心の高さが物語っている。
人の感覚機能である五感は視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚であるが、視覚、聴覚、触覚が、主に物理量であるのに対し嗅覚(ニオイ)は人にとって非常に曖昧で、数値化しづらい感覚である。1971年当時の悪臭苦情は、畜産・製造工場型であり、これら臭気の評価方法は機器分析(ガスクロマトグラフ法、吸光光度法、検知管法、においセンサー法等)が可能であったが、都市生活・民生型苦情では、対象となる物質の数が無数であり機器分析はできない。そのため、臭気の評価方法は嗅覚測定法(三点比較式臭袋法、オルファクトメータ法、六段階臭気強度法等)が用いられている。嗅覚測定法とは、人の嗅覚を用いて悪臭を測定する方法であり、1995年4月に悪臭防止法の改正がなされ、複合臭等に適切に対応するため、嗅覚測定法による規制制度が導入された。
人の嗅覚は、ニオイの種類により強く感じたり、弱く感じたりする。例えば、アンモニア(し尿のようなにおい)の0.2ppmはやっと感知できるニオイに対し、メチルメルカプタン(腐ったタマネギのようなニオイ)の0.2ppmは強烈なニオイに感じる。このことは、人の嗅覚は危険予知機能を備えており、メチルメルカプタンのような腐ったニオイには敏感で、アンモニアのし尿のようなニオイは鈍感に感じる特性を持っている。また、においの強さと感覚量はウェーバー・フェヒナーの法則より対数に比例する。例えば、メチルメルカプタンの「やっと感知できるニオイ」は0.0001ppmに対し「弱いニオイ」は0.0007ppm、「らくに感知できるニオイ」は0.004ppmとなる。即ち、やっと感知できるニオイの40倍の濃度になっても、感覚的には楽に感知できるニオイ程度にしか感じない特性を持っている。今後のビル空調には、このような悪臭防止対策がますます必要になり、高度な脱臭技術が求められるものと思われる。
ミドリ安全エア・クオリティ株式会社 理事
西北正登